とある私立の臨時教師

出てくる名前は限りなく本名に近い雰囲気を纏わせた仮名です。

 

ということを、念頭に置きつつ。

 

22歳でとある私立の臨時教師になった。
そこそこの進学校だけれども、モンペが多いと有名。
まあ、モンペごとき大したことないわ、と思いながら私は教師生活を始める。

 

が、ここで恐ろしさを知る。
受け持って最初の学級で、その片鱗を見た。

 

別にDQNネームが多い学校じゃない。
そもそも、まだDQNネームが浸透し出した時代でもない。
しかし、名簿にはとんでもない名前があった。

 

 

「山田王子」

 

 

王子(ぷりんす)

 

いやいや、冗談だろwww
と、思ったけれど、冗談が名簿に書かれているわけもない。

 

彼は、もこみちみたいに驚くほどのイケメンなわけもなし。
まあ、そこそこの顔だった。
ハライチの細い方を綺麗にした感じ。
市原隼人の劣化版みたいな。

 

 

DQNネームとは言え、王子はクラスでも普通の扱いだった。
というのも、本人が良い子だったからである。
授業も普通に聞いているし、クラスのカーストで言えば上位の方。

 

ああいうルックスは女子に受けるのかしら、と思ったが、勿論「ぷりんす」という名前が邪魔をしていた。
誰も「ぷりんす」なんて呼んではいなかったが。

 

そんな中、面談で私は王子の母親に会うことになる。

 

 

 

 

王子の母親は普通の人だった。

 

 

見た目は。

 

 

中身が問題である。
私はもちろん、心してかかっていた。
「ぷりんす」なんて名前をつけているんだから、まともな人ではないだろう。

 

そして面談が始まったが、やはりまともな人ではなかった。
事あるごとに「ぷりくんはね」「ぷりくんの」「ぷりくんが」

 

 

 

ぷwwwwwwwwりwwwwwwwwwwwwwくwwwwwwwwwwwwんwwwwwwwww

 

プディングに聞き間違えそうだった。

 

 

 

そう呼ばれるたび、王子は嫌そうな顔をしていた。
可哀想だなあ、とは思いながらも
「あなたの息子さんの名前って変わってますよね」
とは言えない。

 

その日は何事なく面談が終わった。
王子は帰るときに、私を見かけると
「うちの親って変でしょ」
と言った。
笑顔で肯定しておいた。

 

 

王子は大学を受験して、見事受かった。
そこで王子との関係もおしまいかな、と思ったが、なんとなくずるずると面倒を見ていた。
他愛無い話ばっかりだけど、たまに学校を訪れる王子は可愛らしいものだった。
もっとも、名前では苦労しているらしかったが、それも大学ではネタらしい。

 

しかし、その「ぷりんす」という名が王子に脅威を与えるのは、大学四年になってからだった。

 

 

お察しの通り、就職である。

 

当時はこんな変な名前の風潮が無く(もちろん、今の時代でも浮くレベルの名)、この名前は就活で足を引っ張った。
ちゃんとした大学を出るにも関わらず、王子は書類のみで落ちる、落ちる、落ちる。

 

結果、全滅だった。
面接にも漕ぎつけられない、というのは、どう考えても名前のせいだと思う。
私だって、挨拶に来た社員が「山田ぷりんす」なんて名刺を出したら笑うと思う。

 

しかし、これは王子にとっては死活問題であった。
生活がかかっているんだから、当然だわな。

 

 

 

 

王子は泣く泣く土木作業をし始めた。
それを報告しに来てから、彼はしばらく学校に来なくなった。
来ないのが当然なんだけれど、定期的に来ていたヤツが来なくなったら、なんか不安になる。

 

私は王子の作業現場を、気儘に見に行くことにした。
これが間違いだった。

 

車の中から、王子の現場をちらーっと見た。
王子は下の名前で呼ばれて、「ぷりんす!」って誰かが呼ぶたびに大笑いが起きていた。
いじられキャラ、とかじゃない。
王子はガチで嫌そうな顔をしている。
あーあ、そこそこ端正なお顔を汚してしまいおって。

 

教え子がこうなっているってのは、胸が痛かった。

 

 

数日後、私は帰り道を歩いている王子に、まるでたまたま通りかかったかのように
「よう!」
なんて声をかけ、車に乗せて飯を食いに行った。
王子に近況を聞くと、最初は笑って話していたのに、途中から泣き始めた。
見てられないなあ、と思った。

 

とりあえず、たまには飯を食おうよ、なんて話をして、その日は解散となった。

 

数か月後、私の学校でついにモンペが行動を起こした。
このときはじめてモンペの恐ろしさを知る。

 

彼女は、会議のときに私の名を挙げ、
「1先生は授業中に黒板をお消しになりますよね?」
「はあ」
「それで粉が飛ぶので、子供の体にも害が与えられているんですよ!」
「?」
「ですから、黒板を消さないよう、文字は小さく書いてください」
と、まさしくモンペのテンプレのような主張をした。

 

ぽかーん、という空気が漂っていたが、ファビョる彼女に教頭が謝罪するよう、私に要求し始めた。

 

ファビョ!ファビョ!な母親に、私はもうどうでもよくなった。
別にいいや、という不思議な気持ちが働いた私は、

 

「おたくが学校中の黒板をホワイトボードに替えて下されば構いませんよ」
と発言した。

 

どうせ辞めさせられるな、と察した私は、この日のうちに便箋に退職届を書いてさっさと引き継ぎをした。

 

後日、学校を辞めた私は校長に乞われてモンペママに謝罪の手紙を書いた。
ついでにホワイトボードに使うペンを同封しておいた。

 

大学在籍中に、ちょっとした資格を得ていた私は、それを使って働くことにした。
収入はむしろアップした。
人生ってどうにでもなるなあ、なんて呑気なことを考えていた私のもとに、久し振りに王子からメールが来た。

 

折角なので会おう、という話になり、私は王子と食事をしに行った。
そこで「辛い」という話を聞く。
考えてみれば、王子も一年近く職場で我慢していたのだ。

 

泣きそうな王子に、私は、
「じゃあもう職場やめろよ」
と無責任な発言をする。

 

王子もそれを無責任だと感じたらしく、
「仕事場辞めたら、どうすればええんかわからんやろ」
と、至極真っ当な発言をした。

 

教え子だし、責任くらいは持ってやるか、という軽いのか重いのかわからない気持ちで、私は彼に
「私がお前一人くらい養ってやるよ!」
と大口を叩いた。

 

 

これで王子と婚約した。
自分でもどうかしていたとしか思えない。

 

翌日、うだうだとしている王子の背中を押して、さっさと退職届を出させた。
なるようにしかならない。

 

結婚に関して、うちは親がいないから問題は無かったけれど、片方の問題が勃発した。
そう、忘れてはならない。

 

 

「ぷりんす」という元凶の名付けをした、あの母親である。

 

私はとりあえず向こうの家に挨拶をしに行くことにした。
実に数年前の面談ぶりである。

 

王子の家は普通のマンションだった。
豪勢な名前には似合わず、なんて言っちゃ悪いか。

 

ここで両親に会う。
母親は私を見るなり、「え?見たことあるくね」みたいな顔をしたが、その通りである。
何も間違ってはいない。

 

私は王子両親に挨拶をした。
一連の流れも話す。
すると、当然のように母親が怒りだした。

 

やっぱり、元教師だからかなあ、と思ったが、彼女の怒りの矛先はそこではない。
「ぷりくんのお嫁さんがこんな冴えない人でどうするの!」
「道子(私の名前)? 名前まで冴えない!」
「ぷりくんの名前には合わないよね!」

 

合うやつなんていねえだろ、と心の中で思った。

 

はずが、口にしていた。

 

結果、めっちゃキレた母親と、どっちつかずの父親に愛想をつかした王子とともに、二人で勝手に結婚をすることにした。
王子には私のマンションに住んでもらい、家事手伝いでもしてるように言っておいた。

 

毎日のように王子の携帯には母親から連絡があったが、王子は適当にそれを受け流していた。
もちろん、王子両親がマンションに来ることは一度も無かった。

 

 

王子が細々バイトしてたこと以外、特筆すべきこともないので一年くらいすっ飛ばす。
で、男の子が生まれた。
まあ当然の流れではある。
どうでもいいけど、王子とのセクロスが初めてだった喪の私は、セクロスでさえ耐えられなかったのに出産なんて無理だわ、と思っていたが、案の定、出産の際、軽く意識が飛んでた。
痛みには弱いタチらしい。

 

子供には「悠太郎」みたいな普通の名前をつけた。
ここで問題が勃発。

 

王子母が初めてマンションに来た。
うちの子を見るなり、
「悠太郎! 冴えない冴えない!」
「王子の息子なんだから、もっとお洒落な名前をつけよう!」
「天馬(ぺがさす)とか!」

 

以後、彼女はマジで悠太郎を「ぺがくん」と呼び、二日後には改名手続きを調べて来た。
改名手続きができるなら、王子にさせてやれよ。

 

 

勝手に「ぺがくん」なんてあだ名を付けられても、実際は悠太郎である。
悠太郎は王子そっくりの細い目をさらに細めて、王子母をじいっと見ていた。
とくに笑いもしない、無愛想な孫である。

 

私は王子母に
「以後、ぺがくんと呼べば出禁にしますよ」
と告げた。
近所中で、「道子は鬼嫁」という噂が広まった。

 

王子母、こっちに住んでないのにとんだスピーカーである。

 

鬼嫁とか呼ばれようが、どうでもいい。
とりあえず悠太郎は悠太郎である。
それに王子母は近所に住んでないしいいか、なんてお気楽な考えをしていた。

 

が。
ある日、公園で三人で遊んでいたら、見知らぬお母様に
「天馬なんて名前を付けちゃって、何を考えてらっしゃるんですか」
と、めっちゃ怒られた。
聞くと、悠太郎の名前は近所では「天馬」ということになっているらしい。

 

ふざけんなよババア。
ということで、王子両親を呼んで大会議。
会議なんて教師だったとき以来である。

 

 

王子母は我が家に着くなり、猫撫で声で、
「ごめんね、道子ちゃん。天馬なんて」
「そうですよ、お母さん。うちの子は悠太郎です」
「でね、新しい名前の案を持って来たの」

 

どうやらお母さんと会話はできないらしい。

 

王子母、白い紙をグッチの鞄から出す。
「道子ちゃんって、どうもありふれたお名前に固執してるみたいじゃない?だから、そういう方向性で私も考えてみたの」

 

方向性もクソも、既にわが子の名前は悠太郎で届を出してある。
まあペラペラと気が済むまで喋ってくれればいいや、と思って
「はあ、それで?」
と、王子母に先を促すと、彼女はすっごい満面の笑みで、

 

「こういう名前なんてどうかしら?」
(これだけは本当に出された名前を書きます)

 

 

 

笑太(わらった)

 

 

 

 

クソワロタwwwwwwwwwwwwwwww
クソ笑太wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

斜め上の発想。

 

 

42:名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 11:21:53.76ID:At9VA+W60

 

改名なんてさらさらする気は無いが、まだ「しょうた」ならアリだ。
だけど「わらった」って、動詞?過去形?

 

私は腹を抱えて笑った。
笑いまくって、王子両親には帰ってもらった。
王子は「親と縁を切る」って怒っていたけど、別にいいか、と思ったので止めておく。
面白さの方が勝っていた。
笑太なんてネタな名前をつける両親、他にはいないぞ、王子。

 

 

そうこうしている間に、娘ができた。
鬼嫁噂も消えかけたころである。
娘の名前は生まれ月の花に則って「桜」みたいな感じ。

 

さて、そろそろ来るかな、と思っていた数日後。
やっぱり王子母が来た。
「わらった」事件以来の再開である。

 

 

王子母は桜を見るなり、
「桜? またそんな名前をつけて」
「女の子なんだからお洒落にしましょう」
「今からでも間に合う。アオイに変えなさい」

 

アオイ?
王子母にしてはまともな名前だ、と思ったが彼女はやはりすごかった。
アオイの漢字が書かれた紙には、

 

 

「愛音糸」

 

暗号か。

 

もちろん却下した。
すでに桜も届を出してある。
王子母は憤慨しながら帰って行った。

 

そんな中、王子家の親戚(母方)がお亡くなりになる。
私も王子家なわけだし、お葬式に行った。
そこで王子家のとんでも名付けに出くわす。

 

王子母は長女。

 

 

・王子母
→長男:王子(ぷりんす)
※孫候補「天馬(ぺがさす)」「笑太(わらった)」「愛音糸(あおい)」

 

・王子母の弟
→長女:れもん
→長男:すだち
→次女:きうい
(全平仮名)

 

・王子母の妹
→長男:葉夜輝(はやて)

 

これには本当に驚いた。
だって、もう子供たちはみんな大人。
しかも今みたいにDQNネームが取り沙汰されている時代じゃない。
私は森鴎外のファミリーになったのかと、真剣に悩んだ。

 

王子母はそこで私の愚痴を延々と言う。
「冴えない名前をつけて、何を考えているのかわからない」
「子供には大物になってほしくないのか」
「まあ本人も冴えない名前だし、冴えない女性だから」
「女だてらに教師なんて」
「その教師もやめた今ではただの女」
「おしゃれに疎い」

 

悪口wwwwwwwwwwww

 

その後、葬式で大勢が集まる飯の中、私は王子母を
「ぷりんすまま! ぷりんすまま! ちょっと来てください!」
と大声で呼んでおいた。
係員の人がすっごい顔で見ていたので、悪口の件は水に流してやることにした。

 

その晩、身内だけでちょっとしたお食事会みたいなものを開いた。
もちろん私も嫁なので参加。

 

そこで、王子母の妹(葉夜輝の母)に、意味の分からないバイブルを渡される。
「わたし、これで幸せになったのよ」
どうやら宗教のお誘いらしかった。
みんなが見ていないところでやるだけ、葉夜輝ママは賢い。
しかもすっごいしつこい。
なんど断ってもなんちゃら教の凄さをずうっと語っている。

 

 

私は仏教校で得た「般若心経(暗記スキル)」を発動させた。
ぶつぶつと一人でお経を唱え出した私に引いたのか、葉夜輝ママはいなくなったが、のちに「キチガイ嫁」と身内で噂をされた。
これは今でも続いているが、王子はわかっているし、我が家の鉄板笑い話。

 

王子はこんな不思議なお家にいたのに、どうもまともに育っている。
旦那としてそれはありがたいが、とても不思議。
私の教え方が良かったのか。

 

 

そんな中、ついに王子が王様に昇格する。
細々とやっていたバイトが芽を出し、プロとなった。
私たちは外国へ高飛び。
初海外ですよ、ぷりんすまま!

 

というわけで、昨日ぷりんすままに「さよなら」を言いに行った。
王子にすがりついて泣いていたけど、もうパスポートは手に入れてしまったのですよ。
しっかりと「山田王子」って書いてあるけどな。

 

ぷりんすままにお礼がてら和菓子をプレゼントした。
やっぱり「冴えない」って言われたけど、なんかそれも愛嬌がある気がした。
別れ際に、私はぷりんすままに
「冴えないのでサエコって呼んでください」
って言ったけど、たぶん彼女は「サエコ」を知らないのでネタにはならなかった。

 

ばばっと書いているけれど、実は王子に出会ってからもう八年?九年?くらい経っているんだなあと思って、今は感無量です。
DQNネームの教え子と私のお話はこれにておしまい。

 

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